Can we trust the Bank of Japan?

日本銀行は信用できるか」読了。岩田先生渾身の一作。
紹介・書評としてはJD-1976さんのもの鈴木先生のものが優れているので、私から付け加える事はありませんな。
個人的に面白いと思った所が二つあるのでそれだけmemoしておこう。
一つ目はp94〜95のmoney supply論争に関する話で、当時、monetary baseを増やせという岩田先生に対し、日銀の翁邦雄氏はmonetary baseを増やせというのは、overnight rateをzeroまで低下させてみろという提言に等しいと反論したそうな。これに対し岩田先生は翁氏の駆使する「monetary baseをcontrolする技術的な話」に乗って論争したため、money supply論争を見物していた人たちには、話が技術的過ぎて、「何が本質的問題なのか」が分からなくなってしまったのだ。そうではなく、

筆者としては「ゼロにしなければだめだというなら、そうしてはどうですか」と回答すればよかったのかもしれない。それで、マネタリー・ベースが増え、貨幣増加率が上昇して、デフレに陥らずに済んだのなら、そう回答すべきだったと反省している。

とのことだ。
もう一つは、p196〜198の、日銀企画局幹部からの「ご説明」や『日銀レビュー』の、

インフレーション・ターゲティングを導入しているニュージーランド、カナダ、英国、スウェーデンの中銀は、その導入当初、インフレ期待の安定を重視する観点から、足許の物価安定に向けて厳格な運営を試みていたが、その後徐々に、中期的な物価と実体経済の安定をめざす運営に変貌していった。すなわち各国の中銀は、実体経済の安定にも配慮して、たとえ足許の物価が目標から乖離するようなことはあっても、それを無理に安定化するのではなく、時間をかけて緩やかに安定化することをめざした運営を行うようになっている。このような政策運営方法とインフレーション・ターゲティングを採用していない主要国の政策運営方法は収斂してきているとの評価もされている。

という要旨を、

インフレーション・ターゲティング採用国の金融政策運営方法とインフレーション・ターゲティングを採用していない日本の金融政策運営方法は収斂するどころか、全く反対方向を向いた金融政策である。*1

バッサリ切り捨てた所。特に切り捨てる根拠として二番目に挙げた、

インフレ目標政策採用国の中央銀行には、短期的な裁量性はあっても、その裁量性はあくまでも中期的(一年半程度)に目標インフレ率を達成するための手段としての裁量性であって、中期を超える期間の裁量性はない。イングランド銀行は短期的にもインフレ率が目標よりも上下に一パーセント以上乖離すれば、直ちに説明責任を求められる。それに対して、日銀は永遠の期間の、しかも、永遠に責任を取る必要のない裁量性を持っている「権力者」である。
日銀が「日銀の金融政策運営方法もインフレ目標政策採用国の中銀のそれも同じようなものである」と本気で主張するならば、むしろ、日銀がインフレ目標の採用を拒否する理由はないはずである。日銀はインフレ目標を採用すると、日銀に裁量性がなくなるため、採用するとかえって物価の安定は達成されないと主張してきたはずである。それが裁量性に関して変わらないと考えを変えたのであるから、インフレ目標の採用に支障はないはずである。*2

という箇所にはしびれました。岩田先生、流石!

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)

*1:太字強調は引用者。

*2:太字強調は引用者。